2010/06/07

長谷川潾二郎「猫」

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 神奈川県平塚市の平塚市美術館にて、「平明・静謐・孤高−長谷川潾二郎(はせがわりんじろう)展」が開催されています。先日放送された日曜美術館で潾二郎の名前とこの絵を知り、俄然興味が湧いたので足を運んでみました。


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 1966年に描かれた「猫」。スヤスヤと幸せそうに眠っていますね。実弟から生後まもなく譲り受け家族の一員になったタローを描いたこの作品は、一見すると完全に描き終えているように見えますが、実は、髭が片側の3本しか描かれていません。画商が潾二郎を評します。

 「この人はどうしても実物を目の前に据えておかないと絵がかけないのである」

 会場では潾二郎の制作日誌の中からリンゴの絵についてのエピソードが紹介されています。

 月始め、遅れているリンゴの絵を仕上げなければいけませんでした。しかしどうしてもリンゴの赤が描けなかったようです。描いては潰して描き直す。何度も繰り返します。しまいには、もう潰したらキャンバスがダメになってしまうからどうしても仕上げなければという所までいきます。

 そしてついに月末。「新しいリンゴを買ってこよう」という事で日誌の紹介は終わっていました。

 絵に対する愚直なまでの執念を感じさせます。

 髭が描かれなかったのも同じで、タローがこの寝姿になる事が無く、髭の正確な方向が分からなかったのです。

 空想で描く事は、
 「私はそれがいやだった」

 と、随想「タローの思い出」に記しています。


 しかしながら、ついぞ実際に見て描くチャンスはありませんでした。タローが亡くなってしまったのです。想像で描かざるを得なかった髭、「それは簡単な、申しわけのような髭だった」(「タローの思い出」)のです。

 でもこれほど愛情溢れる髭は無いでしょう。素敵な絵画でした。